2021/08/20 09:12



免疫学者のババック・ババン氏は、コロナウィルス感染による最も重い症状の原因を調べたとき、真っ先にカンナビノイド(大麻抽出薬効成分)を思ったそうです。


具体的には、非向精神作用のカンナビノイドであるカンナビジオール(CBD)について考えたそうです。

ジョージア州オーガスタ大学歯科大学の研究副学部長であるババン氏は、悪性黒色腫、慢性創傷、アルツハイマー病など、炎症を伴う他の疾患に対するCBDの効果について研究しました。


パンデミック真っ只中の昨年夏、彼のチームは世界中のCBD研究者と同じくコロナ感染重症患者に見られる症状であるサイトカインストームと急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対するCBDの効果の研究を開始しました。


ババン氏によると、ウイルスに対抗する最も強力な手段は免疫システムであり、ウイルスに対する免疫を「細胞性免疫」と呼ぶのはそのためだそうです。「免疫システムは非常に強力ですが、それが過剰になると、悪いことが多く起こります。

そのようなときは、免疫系を休ませることが必要となり、それにCBDが役立ちます。」とババン氏は言います。


この記事のために取材した研究者全員は、2つのことを強調しています。

1、CBDがサイトカインストームとARDSの治療法として非常に有望である。

2、これからより多くの研究と臨床試験を行う必要がある。


サイトカインストームにCBDを処方するには、ヒトでの臨床試験を行う必要がありますが、もうひとつの炎症反応である潰瘍性大腸炎の治療薬としてのCBDの臨床試験では、すでに有望な結果が得られています。


CBDの利点の1つは、他の医薬品に比べて副作用が軽いので、難治性てんかんの子どもにCBDベースの医薬品が承認されています。


サイトカインストームはどのように起こるのか?


コロナウィルスに感染した人のうち、サイトカインストームやARDSを発症する人の割合は比較的少ない(4%という研究結果もあります)のですが、発症した場合は重篤な状態に陥り、場合によっては死に至る可能性もあります。


現在、サイトカインストームの治療にはステロイドが使われていますが、効果はあるものの、多くの副作用があるため、将来的にはCBDが治療に使われる可能性があります。


炎症とは、身体がウイルスや細菌などの病原体を攻撃して無力化するためのプロセスです。体内で異物である病原体を検出すると、マクロファージと呼ばれる特殊な細胞を送り込み、それをむさぼり食べて破壊します。

SARSウイルス感染、無症状または軽度のコロナウィルス感染は、マクロファージがウイルスに競り勝つことで排除します。

白血球に属するマクロファージは、身体に初めて入る敵(ウィルス)には助けを必要と認識し、T細胞(適応免疫の中心的役割を果たす白血球)に抗原を提示したり、サイトカインと呼ばれる分子を放出して炎症反応を起こしたりすることもあります。


B細胞(抗体を産生する重要な細胞)は、他の細胞がウイルスを識別して破壊できるように、ウイルスの抗体に付ける警告ラベルを作り、マクロファージはまた、サイトカインと呼ばれる非常に強力なタンパク質を放出します。

サイトカインは、さまざまな感染症対策の白血球に、部隊を集めて外来の病原体と戦うように指示するメッセンジャーです。


コロナウィルス感染での軽度な症状の場合、水分を摂って休んでいる間に、白血球はウイルスに対して効果的な攻撃を行います。

コロナ感染の多くのケースは、この攻撃でウイルスに乗っ取られるのを十分に防ぎ、最終的にはウイルスが排出されます。


しかし、深刻なケースでは、免疫系が過剰に反応します。

強力な炎症性サイトカインが過剰に放出され、単球、リンパ球、好中球などの感染症に対抗する強力な免疫細胞も過剰に放出されます。

これらの強力な感染防御細胞が必要以上に放出されると、ウイルスではなく自分の身体の細胞を攻撃するようになります。

健康な細胞もこの攻撃を受け、さらにサイトカインが放出され、事態はサイトカイン・ストームに突入します。

この反応により、肺が二酸化炭素などの有害ガスを除去したり、酸素を効率的に体内に供給することが困難になります。


ババン氏や医療大麻研究者たちは、CBDがエンドカンナビノイド系、免疫系とどのように相互作用するかという点から、CBDが役に立つのではないかと考えています。


エンドカンナビノイドシステムとは?


エンドカンナビノイドシステムの仕事は、身体が恒常性(ホメオスタシス)を保つのを助けることだと、カリフォルニア州の医師であり、医療大麻の専門家であるボニー・ゴールドスタイン氏は説明します。

「すべての哺乳類にはエンドカンナビノイドシステムがあり、このシステムが「細胞がお互いに送る化学的メッセージ」のバランスをとっている。私たちが感染症や怪我、炎症、外傷などの刺激を受けると、エンドカンナビノイドが作用して、修復、保護、回復を促進し、私たちが元気でいられるように裏で機能しています。」


大麻草に含まれる数百種類のカンナビノイド(大麻由来の薬効成分)のひとつがCBDです。

CBDは人間のエンドカンナビノイドシステム、また免疫系細胞と相互作用します。

多くの研究はマウスで行われており、まだヒトに対して証明がされていませんが、CBDが免疫調整剤であることを示す証明があります。

"CBDは、自己免疫疾患のような過剰な免疫系を落ち着かせることができ、また、免疫系がうまく機能していないときに、免疫力を高めることもできます。" とゴールドスタイン氏は言い、多発性硬化症の治療にも有効であるとする研究結果もあります。


現時点でコロナウィルスとCBDについてわかっていることは?


アメリカ、イスラエル、カナダの医療大麻研究者たちは、CBDが免疫系の調整に役立つことから、パンデミックの発生以降、CBDがサイトカインストームやARDSの鎮静に役立つかどうかを独自に調査しました。


2020年9月にCannabis and Cannabinoid Research誌に掲載された研究では、ジョージア州のババン氏のチームが、Poly (I:C)と呼ばれる薬を用いてマウスに人工的にARDSを誘発し、サイトカインストームを発生させて呼吸困難を引き起こしました。

「この病気の典型的な兆候をすべて見ることができました」とババン氏は言っています。


「マウスの酸素濃度が低下し、炎症細胞が侵入し、肺の構造が破壊された後、研究チームは一部のマウスにCBDを注入した結果、3〜4時間後には、症状が改善がみられ、酸素はすぐに戻り、単球と好中球は正常なレベルに近づき、炎症性サイトカインも改善し、肺の構造も改善しました」とババンは言います。


いずれの場合も、CBDを投与されたマウスの損傷は、部分的または完全に回復しました。

研究チームは、この研究に続いて、CBDがなぜこのようなプラスの効果をもたらすのかを理解するために、別の試みを行いました。


2020年11月に「Journal of Cellular and Molecular Medicine」に掲載された彼らの2つ目の研究は、前回の研究と同じ初期過程を経て、マウスにサイトカインストームとARDSを作り出しました。

この研究では、炎症を抑えるために中心的な役割を果たすペプチドであるアペリンが、ARDSのマウスではゼロに近いことに気づきました。CBDを投与したところ、アペリンが20倍に増加し、マウスは回復に向かいました。


「アペリンは、肺、心臓、消化器系などに広く存在しており、ホメオスタシスや免疫系のバランスを整えるのに重要な役割を果たしている可能性があります」とババンは説明します。

CBDとアペリンが本当に免疫調整剤として一緒に働くことができれば、”サイトカインストーム”を”サイトカインブリーズ”に変えることができるかもしれない、とババン氏は言います。しかし、「サイトカインストームに対してCBDを人に勧める前に、もっと研究する必要がある」と注意を促しています。


ババンは現在、CBDがアルツハイマー病のマウスにどのような影響を与えるかを調べています。

まだ査読(研究者仲間や同分野の専門家による評価や検証のこと)を受けていませんが、シカゴ大学の研究者が2021年3月に発表したプレプリント研究では、ARDSを誘発したマウスにCBDを投与したところ、同様の結果が得られたことが注目されています。

この研究が査読を経て成功すれば、CBDがサイトカインストームやARDSの治療に有効であることを示す新たな証拠となります。


イスラエルとカナダの研究者たちも、カンナビノイドがサイトカインストームを軽減できるかどうかを調べています。

2020年11月、カナダの研究者たちは「Aging」誌で、CBDを主成分とするヘンプの中には、炎症性サイトカインを抑制するものがあると発表しました。


一方、1月には、イスラエルの研究者たちが「Nature」誌で、CBDを使った治療法が肺の炎症を抑えると発表しました。


カナダの研究者たちは、3Dプリントした人工皮膚に紫外線を照射して炎症を誘発しました。

炎症を起こした後、人工皮膚を7種類の大麻の品種を使用して実験をしました。

医療用大麻の研究者はカンナビノイドとテルペン(大麻植物に含まれる芳香油で、独自の薬効成分を持つ)の組み合わせの違いを、栽培品種と呼んでいます。栽培品種には、CBD、THC、その他カンナビノイドとテルペンの組み合わせがすべて異なっていました。

その結果、ある品種は有害な可能性があり、別の品種は全く影響がないことがわかりましたが、CBDを多く含む品種のみが効果的だった事がわかりました。


研究者の一人であるイゴール・コバルチャック氏は、"一般的に、CBDが多く含まれる品種の方が良い結果を出した "と語っています。 

これらの結果は、CBDがサイトカインストームの鎮静化に効果を発揮する可能性があるというババン氏の知見を裏付けるものです。


効果的なワクチンとその摂取プログラムの存在により、パンデミックの終息がすぐそこまで来ているように感じますが、コロナウィルスの重症化を防ぐ為のより効果的な治療法が必要とされています。

それらを踏まえてサイトカインストームとARDSをターゲットにした研究が最も賢明で、どちらかを発症するとコロナがもたらす最悪のケースにつながるからです。


もっと多くの臨床試験を行う必要がありますが、これらの専門家は、過剰な免疫反応に対する効果的な治療法、しかも比較的副作用の少ないCBD治療法は、画期的なものになる可能性があると強調しています。



INVERSEの記事、“COVID-19 AND CBD: WHY SCIENTISTS ARE EXCITED ABOUT THE POSSIBILITIES”より

https://www.inverse.com/mind-body/cbd-coronavirus-treatment